腹膜透析が「つらい」と感じる患者に対して医療従事者ができること
腹膜透析は、患者自身や家族・訪問看護者によるサポートを受けながら、自宅で透析を行える人工透析療法です。
しかし、日常生活において透析時間の確保や定期的な通院、食事の制限などのさまざまな制約が生じることから、患者にとって負担となる場合があります。
病院・訪問看護ステーションでは、腹膜透析による生活上の制限や心身の負担を考慮したうえで、患者が安心して治療を継続できるようにサポートすることが求められます。
この記事では、腹膜透析が「つらい」と感じる理由や医療従事者が患者に対してできることについて解説します。
出典:厚生労働省『個別事項(その7)』
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腹膜透析は血液透析と比べて日常生活の制約は少ない
腹膜透析は、血液透析と比べると日常生活の制約は少なく行動の自由度が高いことから、生活の質(QOL:Quality of life)を維持しやすい人工透析療法といえます。
▼日常生活の制限について
比較の観点 |
血液透析 |
腹膜透析 |
通院回数 |
週に3回程度 |
月に1~2回程度 |
食事・飲水の制限 |
多い |
やや多い |
透析を行う場所 |
透析を行える病院・クリニック(※)
|
自宅や外出先 |
透析にかかる
拘束時間
|
週3回 1回あたり4時間程度 |
毎日1~4回 1回あたり30分程度
(CAPDのバック交換の場合)
|
一方で、新たに腹膜透析を行う患者にとっては、今までの生活が大きく変わることになるため、心身のつらさを感じる人もいます。
医師・看護師は、患者が抱える不安や悩みをヒアリングするとともに、日常的に状態を観察して寄り添ったケアを行うことが求められます。
※在宅血液透析(HDD)を導入する方法もあります。
出典:厚生労働省『個別事項(その7)』
腹膜透析がつらいと感じる理由
腹膜透析に伴うつらさには、身体的な負担と精神的な負担があります。患者の性格や透析方式によって感じ方は変わると考えられます。
身体的な負担
身体的な負担を感じやすい症状として、以下が挙げられます。
▼身体的な症状
- 透析液の貯留中に腹部の膨満感がある
- カテーテル出口部にかぶれやかゆみがある など
日中に手動でバッグ交換を行うCAPDによる腹膜透析では、腹腔内に透析液を注入して一定の時間貯留させる必要があります。その際に、腹部が張るような感覚があり、不快に感じたり、食欲が低下したりする患者がいます。
また、透析液を注入するカテーテルを腹部に留置するため、出口部に違和感を覚えたり、かぶれ・かゆみが生じたりする場合があります。清潔に保つための適切なケアを行っていない場合には、出口部の感染症や腹膜炎を発症することもあり、治療が必要となります。
▼腹膜透析の合併症についてはこちらの記事をご確認ください。
出典:厚生労働省『個別事項(その7)』
精神的な負担
腹膜透析による精神的な負担は、「生活の制約によって不便さを感じやすいこと」主な理由として考えられます。
▼不便さを感じやすいこと
- 透析液・器具の携帯
- カテーテル出口部の日常的なケア
- 飲水・食事の制限 など
CAPDによる腹膜透析では、1日に数回のバッグ交換を行うことから、外出の際には透析液・器具を常に携帯する必要があります。
また、合併症を予防するには、カテーテルの出口部を清潔に保つことが求められます。入浴や消毒、ガーゼによる保護などを正しい操作で行う必要があり、不便さを感じやすくなります。
さらに腹膜透析では、必要な透析量を確保するために飲水量や塩分の摂取量などを制限します。これにより、「毎日の食事管理が大変」「好物が食べられない」などのストレスを感じてしまう場合もあります。
▼腹膜透析時の食事療法についてはこちらの記事をご確認ください。
出典:厚生労働省『個別事項(その7)』
腹膜透析患者に対して医療従事者ができること
病院・訪問看護ステーションでは、腹膜透析に伴う負担を少しでも軽減できるように、患者に合った透析方式の選定や心身のケアを行うことが重要です。
➀患者の性格や生活スタイルを考慮して透析方式を選ぶ
腹膜透析を導入する際は、患者の性格や生活スタイルなどを考慮して透析方式を選択します。腹膜透析の透析方式には、1日に数回のバッグ交換を手動で行うCAPDと、専用装置を用いて夜間の就寝中に自動で透析液を交換するAPDがあります。
▼腹膜透析の透析方式
CAPD |
APD |
|
透析液の交換回数 |
1日1~4回 |
夜間に1回 |
透析液の交換タイミング |
日中 |
夜間の就寝中 |
透析時間 |
1回30分程度 |
1日8~10時間程度 |
仕事やプライベートで外出する機会が多く、日中にバッグ交換を行うことが不便に感じる場合や、腹部の膨満感が気になる場合には、就寝中に透析を行えるAPDを選択する方法があります。
また、「出張や旅行のときだけAPDからCAPDに切り替える」「経過を見てAPDとCAPDを組み合わせる“CCPD”を導入する」といったように、患者に合わせて柔軟に透析方式を見直すことも必要です。
▼腹膜透析の透析方式についてはこちらの記事をご確認ください。
②バッグ交換や出口部ケアの操作を指導する
透析液のバッグ交換や出口部ケアの操作について、患者と家族に指導を行います。
正しい操作方法で腹膜透析を管理することで、透析液の注入時に生じていた腹部の違和感を軽減したり、出口部のトラブルを防いだりできる可能性があります。
▼指導内容の例
- バッグ交換の手順と清潔操作
- 出口部の作製手術を行ったあとの管理方法
- 入浴の方法や出口部の扱い
- 出口部の洗浄・消毒方法 など
▼出口部のケアについてはこちらの記事で解説しています。
③日常的な観察を行う
腹膜透析による出口部感染や腹膜炎などの合併症を早期に発見するには、日常的な観察を行うことが欠かせません。
患者に対して毎日の記録を依頼するとともに、異常がある場合には速やかに主治医へ連絡するように伝えます。
▼観察項目の例
- 出口部の状態
- 体温・血圧
- かゆみや痛みなどの自覚症状
- 排液の状態 など
▼腹膜透析患者の観察項目についてはこちらの記事で解説しています。
④患者のメンタルケアを行う
腹膜透析による精神的な負担の軽減を図るために、患者のメンタルケアを行うことが大切といえます。
患者が腹膜透析中の悩みや不安を相談する機会を設けることで、医療従事者としてサポートできることを検討できます。
また、患者と関わる機会が多い看護師が困りごとを聞き出したり、前向きな声かけを行ったりして寄り添う姿勢を持つことにより、患者にとって心強い存在になれると期待できます。
▼訪問看護による腹膜透析患者へのケアについてはこちらの記事で解説しています。
まとめ
この記事では、腹膜透析について以下の内容を解説しました。
- 腹膜透析と血液透析による生活上の制約の違い
- 腹膜透析による心身のつらさ
- 腹膜透析患者に対して医療従事者ができること
腹膜透析を始めると、今までの生活が変わることによって心身の負担を感じやすくなります。病院・訪問看護ステーションでは、患者の性格や生活スタイルを考慮して透析方式を選択するとともに、不安・悩みに寄り添い、腹膜透析の管理について可能なサポートを行うことが重要です。
また、訪問看護によるサポートを行う際には、患者の状態を病院の医師や看護師と共有できる体制が求められます。
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