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腹膜透析の食事療法。目安となる摂取基準と管理方法

体の中にある腹膜を介して老廃物や余分な水分・塩分を除去する腹膜透析では、代表的な血液透析と比較して食事・飲水の制限が少ないとされています。

しかし、腹膜透析によって患者の良好な状態を維持するためには、腎臓への負担や透析によるエネルギー量の増減などを考慮して食事を摂ることが求められます。

病院・訪問看護ステーションの担当者は、腹膜透析患者の食事で気をつけることや目安となる摂取基準を把握して、食事療法をサポートすることが重要です。

この記事では、腹膜透析における食事療法の目的や目安となる摂取基準、具体的な管理方法について解説します。

出典:厚生労働省『個別事項(その7:その他の論点)


目次[非表示]

  1. 1.腹膜透析における食事療法の目的
  2. 2.腹膜透析で目安とされる食事・飲水の摂取基準
  3. 3.腹膜透析患者に対する食事・飲水の管理方法
    1. 3.1.➀水分
    2. 3.2.②塩分
    3. 3.3.③エネルギー
    4. 3.4.④たんぱく質
    5. 3.5.⑤リン
  4. 4.まとめ


腹膜透析における食事療法の目的

腹膜透析で食事療法を行う目的には、主に以下が挙げられます。


▼腹膜透析における食事療法の目的

  • 余分な水分・塩分が体内に溜らないようにする
  • 透析液によるエネルギーや栄養素の過剰・不足を防ぐ


腎機能が慢性的に低下している人が水分・塩分を摂りすぎると、腹膜透析による除水が十分に行われず、むくみが生じたり、血圧の上昇によって心臓や腎臓に負担がかかったりする可能性があります。

また、たんぱく質は血液や筋肉、骨などの体を構成する重要な栄養素となるため、過不足がないように摂取することが必要です。

腹膜透析では、透析液を介してたんぱく質が喪失することから栄養不足につながりやすい状況といえます。一方、たんぱく質を過剰に摂取すると、腹膜透析だけでリンを排出できなくなり、残腎に負荷がかかりやすくなります。

このようなリスクを防ぐために、食事療法によって摂取する飲水量やエネルギー量、栄養素などを調整することが重要です。

なお、腹膜透析によるむくみについてはこちらの記事で解説しています。

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出典:e-ヘルスネット『たんぱく質



腹膜透析で目安とされる食事・飲水の摂取基準

腎機能のはたらきが弱まっている腹膜透析患者に対しては、水分・塩分の摂取量を制限するとともに、食事で摂取するエネルギーや栄養素を調整します。

患者の性別や年齢、身体活動度、体重などによって異なりますが、目安となる食事・飲水の摂取基準は以下となります。


▼食事・飲水の目安となる摂取基準

対象
1日の目安となる摂取基準
水分

除水量(L)+ 尿量(L)


塩分

除水量(L)× 7.5 + 尿量(L)× 5g

エネルギー

標準体重当たり30~35kcal/kg/日


たんぱく質

標準体重当たり0.9~1.2g/kg/日

リン

たんぱく質(g)× 15mg以下


また、血液透析の場合にはカリウムの摂取を制限しますが、腹膜透析では比較的除去しやすいことから、基本的に制限は必要ないとされています。ただし、生野菜やナッツ類、果物などのカリウムを多く含む食品を食べ過ぎないように注意する必要があります。

※腹膜吸収ブドウ糖からのエネルギー分を差し引く


出典:厚生労働省『個別事項(その7:その他の論点)



腹膜透析患者に対する食事・飲水の管理方法

病院・訪問看護ステーションでは、患者や家族に対して毎日の食事・飲水をどのように管理するか具体的な方法について指導を行うことが求められます。

訪問看護師が腹膜透析のサポートを行う場合には、主治医の指示に基づいた食事療法を行えるように、円滑に情報連携を行える体制をつくることも重要です。


➀水分

腹膜透析患者では、1日のうちに摂取する飲水量と排出量を同じにすることがポイントです。水分の排出量は、腹膜透析による除水量と尿量を合わせて算出します。


▼1日当たりに摂取できる水分量の計算式

水分摂取量=腹膜透析の除水量(L)+ 尿量(L)


尿量は、飲水量や汗の量などによって変化します。食事前や排尿後に体重を測定して一定に保たれている場合には、尿量が維持されていると判断でき、飲水制限は必要ないと考えられます。

一方で、尿量が減少したり、体重が増加したりする場合には、体内に余分な水分が蓄積されている可能性があるため、飲水量を減らすことを検討します。


②塩分

1日のうちに摂取できる塩分量の目安については、腹膜透析と尿によって除去される食塩量を基に算出します。


▼1日当たりに摂取できる塩分量の計算式

塩分摂取量=腹膜透析による除水量(L)× 7.5 + 尿量(L)× 5g


塩分摂取量の上限を超えている場合は、調理方法や食事の味つけ、使用する調味料などを見直して塩分を制限する必要があります。

また、連日測定している血圧が高くなったり、むくみが生じたりしている場合には医師への相談を促すとともに、必要に応じて塩分の摂取基準を修正します。


③エネルギー

食事から摂取するエネルギー量は、透析液によって腹膜から吸収されるエネルギー量を考慮して算出することが一般的です。


▼食事から摂取するエネルギー量の計算式

食事から摂取するエネルギー量=総必要エネルギー量 - 腹膜吸収エネルギー量


1日の総必要エネルギーは、標準体重当たり30~35kcal/kgが目安とされています。標準体重は[標準体重(kg)=身長(m)2 × 22]で求められます。腹膜吸収エネルギー量については、透析液の種類や濃度などによって変化します。

患者の体重や年齢、栄養状態などを踏まえたうえで、適正なエネルギー量を設定することが重要です。


④たんぱく質

たんぱく質は、患者が摂取する適正なエネルギー量を踏まえたうえで、1日の摂取量を調整します。腹膜透析においては、標準体重当たりの摂取量は1日当たり0.9~1.2g/kgが目安とされています。


▼たんぱく質が多く含まれる代表的な食品

  • 肉類
  • 魚介類
  • 卵類
  • 豆類
  • 乳製品 など


食事の内容を考える際は、たんぱく質だけでなく脂質や炭水化物、ビタミン、ミネラルなどの栄養素もバランスよく摂取することが大切です。

出典:e-ヘルスネット『たんぱく質


⑤リン

リンは、たんぱく質比が高い食品に含まれています。たんぱく質の摂取量を基準にリンを摂りすぎないように制限することが必要です。


▼リンが多く含まれる食品

  • 加工食品(ハム、ソーセージなど)
  • 乳製品(ヨーグルト、牛乳、チーズなど)
  • インスタント食品 など


出典:e-ヘルスネット『リン



まとめ

この記事では、腹膜透析の食事療法について以下の内容を解説しました。


  • 腹膜透析における食事療法の目的
  • 腹膜透析で目安とされる食事・飲水の摂取基準
  • 腹膜透析患者に対する食事・飲水の管理方法


腹膜透析を良好な状態で継続するには、水分・塩分の摂りすぎや透析液によるエネルギーと栄養素の過不足を防ぐための食事療法が求められます。

主治医が患者一人ひとりに合った適正な摂取量を設定するとともに、食事・飲水の摂り方や栄養管理について指導を行うことが重要です。また、訪問看護師によるサポートを円滑に行うには、食事の内容や体重・血圧の変化などの情報を主治医と共有できる体制づくりも必要といえます。

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