腹膜透析で注意が必要な合併症。考えられる原因と対策について
腹膜透析は、慢性的な腎機能の低下を人工的に補う透析療法の一つです。血液透析と比べて日常生活の制約が少なく行動の自由度が高いことから、患者の生活スタイルを維持しやすい透析療法として注目されています。
一方で、腹膜透析によってさまざまな合併症が起こることがあります。病院・訪問看護ステーションでは、腹膜透析で注意が必要な合併症について理解を深めたうえで、患者に対して予防のための指導・ケアを行うことが重要です。
この記事では、腹膜透析によって起こる可能性がある合併症とそれぞれの予防法および対策法、小児患者における注意点について解説します。
出典:厚生労働省『個別事項(その7)』
目次[非表示]
- 1.腹膜透析によって起こる可能性がある合併症
- 1.1.①カテーテル関連の感染症
- 1.2.②腹膜炎
- 1.3.③体液過剰状態による心血管系の合併症
- 1.4.④被嚢性腹膜硬化症(EPS)
- 2.小児の合併症に関する注意点
- 3.まとめ
腹膜透析によって起こる可能性がある合併症
腹膜透析では、腹腔内へのカテーテル挿入が必要になることや、血液の浄化に腹膜を利用することなどから、さまざまな合併症が起こる可能性があります。
①カテーテル関連の感染症
カテーテル関連の感染症は、出口部や皮下トンネルが細菌に感染することによって起こる合併症です。腹腔内とつながる皮下トンネルまで感染が広がると、腹膜炎になる可能性があります。
▼出口部感染・皮下トンネル感染で見られる主な症状
- 出口部の周囲が赤くなる
- 出口部から浸出液がしみ出してくる
- 出口部が腫れる、痛みがある など
原因
出口部感染・皮下トンネル感染は、出口部の汚染や出口部を経由して細菌が体内に侵入することが原因とされています。
▼出口部感染・皮下トンネル感染の原因
- 出口部が清潔な状態に保たれていない
- かぶれやかゆみなどで出口部周辺に傷ができている
- カテーテルの挿入術後すぐに出口部を保護せず入浴した など
対策法
カテーテル関連の感染症を予防するには、日ごろから出口部の消毒や洗浄によってケアを行うことが重要です。また、出口部周辺の観察を毎日行い、異常が見られる場合には主治医へ速やかに相談を促すように指示を行います。
くわえて、患者自身での観察が難しい場合や判断に迷う場合にも、訪問看護師へ相談するように促し、相談があった際には主治医へ速やかに連絡します。
▼カテーテル関連の感染症を防ぐための対策
- バッグ交換時には手指の洗浄・消毒を行う
- 出口部周辺に汗や汚れがある場合には拭き取る
- 出口部の洗浄が可能な場合は、シャワー・入浴による洗浄を行う
- 滅菌綿棒と消毒薬で出口部を消毒する
▼出口部のケアについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
②腹膜炎
腹膜炎は、腹腔内に細菌が入ることによって炎症を引き起こす合併症です。腹膜炎を発症すると、除水機能の低下や腹膜の劣化によって腹膜透析を継続できなくなる可能性があるため、予防と早期の治療が重要といえます。
▼腹膜炎で見られる主な症状
- 腹痛
- 排液の混濁
- 発熱
- 悪心 など
原因
腹膜炎の原因は、体外から細菌が侵入する外因性感染と、体内の臓器にある細菌による内因性感染に分類されます。
▼腹膜炎の感染経路
感染経路 |
例 |
外因性 |
|
内因性 |
|
対策法
腹膜炎を予防するには、腹膜透析の関連器具やカテーテルの出口部を衛生的に保つとともに、必要に応じて抗菌薬を使用する方法があります。
▼腹膜炎の予防策
在宅治療において患者・訪問看護師ともに日ごろ気を付けて行うべき対策
- カテーテルの留置時に抗菌薬を投与する
- バッグ交換時の清潔操作を徹底する
- カテーテル出口部の消毒や洗浄(可能な場合)を行う
医師の判断で行う対策(※)
- 大腸内視鏡や子宮内視鏡を伴う検査を受ける前に抗菌薬を投与する
※医師の判断で行う対策に関しては、留置や検査時、また在宅治療においてカテーテル関連の感染症が起こっているときに指示が出る可能性があります。
③体液過剰状態による心血管系の合併症
体液過剰状態によって心血管系の合併症が引き起こされる可能性があります。体液過剰状態とは、体内に余分な水分・塩分が残されている状態を指します。
▼体液過剰状態に見られる症状
- 高血圧
- 体重の増加
- むくみ
- 尿量の減少 など
原因
体液過剰状態が心血管系の合併症を引き起こす原因には、水分・塩分の摂りすぎによる高血圧があります。
腹膜透析患者は、腎機能の低下によって水分・塩分の排出がうまくできなくなることから、体液過剰状態になりやすいとされています。体内の血液量が増えると、血管や心臓に負担がかかり、心血管系の合併症を引き起こす可能性があります。
対策法
高血圧による心血管系の合併症を防ぐには、体液量を管理して適正体重を維持することが重要です。
▼適正体重を維持するポイント
- 腹膜透析による除水量と尿量を基に、水分・塩分の摂取量を制限する
- 尿量や体重、血圧を毎日測定して経時的に観察する
- 腹膜機能を定期的に評価して透析処方の見直しを検討する
▼腹膜透析の食事制限についてはこちらの記事をご確認ください。
④被嚢性腹膜硬化症(EPS)
被嚢性腹膜硬化症(以下、EPS)は、腸管周辺の腹膜が広範囲に癒着する合併症です。EPSを発症すると、腹膜透析の中止を検討せざるを得なくなる場合もあるため、予防が重要といえます。
▼EPSに見られる主な症状
- 腹痛
- 嘔吐
- 便秘 など
原因
EPSは、長期間の腹膜透析や腹膜炎を繰り返すことによる腹膜の劣化(肥厚)が原因とされています。
また、EPSの発症は使用する透析液にも関係していると考えられています。現在は、ブドウ糖分解物を減少させた“中性化透析液”が標準的に使用されています。従来の酸性液を使用していたときと比較して、EPSの発症が低減したという観察研究の結果が報告されています。
対策法
EPSの発症を防ぐには、腹膜炎の予防に取り組むとともに、腹膜劣化を判断するための検査を定期的に実施することが必要といえます。
▼EPSを予防するための対策法
- 清潔操作の徹底や出口部のケアを欠かさず行う
- 腹膜平衡試験(PET)による腹膜機能評価を行う
- 腹部CTを実施して腹膜劣化の状態を診断する
小児の合併症に関する注意点
小児の腹膜透析患者は、成人よりも腹膜炎を発症する可能性が高いとされており、低年齢であるほどそのリスクが上昇するという調査報告もあります。
病院・訪問看護ステーションでは、保護者に対して出口部・トンネル部の観察とケアを行うように指導・教育することが求められます。
▼小児の腹膜炎を防ぐための対策法
- 乳児の場合、おむつ内にカテーテルを作製しないようにする
- おむつ交換のタイミングで出口部が汚染しないように注意する
- 腹巻やつなぎの服などを着用して乳児が出口部を触らないようにする
まとめ
この記事では、腹膜透析の合併症について以下の内容を解説しました。
- 腹膜透析によって起こる可能性がある合併症
- 小児の合併症に関する注意点
腹膜透析による合併症を防いで安定した腹膜透析を継続するには、出口部のケアや食事制限、腹膜機能の評価・観察などを行い、予防と早期治療につなげることが重要です。
病院・訪問看護ステーションでは、「体重や血圧などに変化がないか」「合併症の初期症状が出ていないか」などを把握するために、医師と看護師の情報連携を円滑化する体制づくりが求められます。
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