腹膜透析における透析液の種類。適正な体液量を維持するには
腹膜透析は、体の腹腔内に透析液を注入して一定期間貯留させることによって、血液中の余分な水分・塩分や老廃物を除去する透析療法です。
注入する透析液と体液(血液)との間に有効な浸透圧差を確保することで除水を行う仕組みとなり、この浸透圧物質は透析液の種類によって異なります。
病院・訪問看護ステーションで患者へのケアを行う際には、貯留量や貯留時間なども含めて適正な除水量を確保できる透析液を選定することが重要です。
この記事では、腹膜透析で用いられる透析液の種類や透析液を調整する際のポイント、適正な体液量を維持する方法について解説します。
出典:厚生労働省『個別事項』
目次[非表示]
- 1.腹膜透析に用いる透析液の種類
- 1.1.ブドウ糖透析液
- 1.2.イコデキストリン透析液
- 2.透析液を調整する際のポイント
- 3.腹膜透析で適正な体液量を維持するには
- 4.まとめ
腹膜透析に用いる透析液の種類
腹膜透析に用いる透析液はさまざまなメーカーから提供されていますが、主に2つの種類があります。
ブドウ糖透析液
1つ目は、ブドウ糖透析液です。ブドウ糖透析液は、浸透圧物質にブドウ糖(グルコース)を使用した透析液です。
濃度によって低・中・高の3種類があり、ブドウ糖の濃度が高いほど除水量が多くなります。ただし、高濃度のブドウ糖透析液は腹膜組織にダメージが生じやすいことから、日本においては基本的に低濃度の透析液が使用されています。
また、以前はブドウ糖の分解反応を防ぐために酸性の透析液が使用されていましたが、現在は改良が行われ、ブドウ糖分解物質を減少させた“中性化透析液”が標準的に使用されています。中性化透析液は、酸性透析液と比較して長く腹膜透析を行える可能性が示唆されています。
▼腹膜透析を行える期間については、こちらの記事をご確認ください。
イコデキストリン透析液
2つ目は、イコデキストリン透析液です。イコデキストリン透析液は、ブドウ糖の代わりに浸透圧物質としてイコデキストリン(グルコースポリマー)を用いた透析液です。
ブドウ糖透析液の場合では、腹腔内に貯留させるとブドウ糖が血中に吸収されるため、長時間の貯留によって除水量が低下することがあります。
イコデキストリン透析液では、ブドウ糖透析液と比べて浸透圧の勾配を維持しやすく、貯留時間が長い場合でも除水量を保てるという臨床試験の報告があります。
透析液を調整する際のポイント
腹膜透析では、患者の腹膜機能や体重などを踏まえて、適正な除水量を確保できるように透析液の種類・透析回数などを調整することが重要です。
基本的には低濃度のブドウ糖透析液が使用されますが、除水が不十分な場合には以下の対応を検討します。
▼除水が不十分な場合の対応
対応内容 |
透析液の調整方法 |
除水量を増やす |
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溶質除去を増やす |
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透析液の交換回数を増やす場合では、日中に手動で交換する負担があることから、夜間の就寝時に自動で透析液を交換する“APD”を選択する方法もあります。
▼APDを含む腹膜透析の種類については、こちらの記事をご確認ください。
腹膜透析で適正な体液量を維持するには
腹膜透析の導入後は、体内の水分量が過少または過剰になるのを防ぐために、体液管理を行うことが重要です。
➀記録ノートを作成する
腹膜透析の状況を観察するために、病院・訪問看護ステーションで記録ノートを作成して患者に配布します。
体重の変化や食事・飲水の摂取状況、尿量などは「腹膜透析によって必要な除水量を確保できているか」を判断する重要な情報になります。
▼体液過剰が考えられるケース
- 水分・塩分を摂りすぎている
- 尿量が減少している
- 体重が増加している など
患者自身に記録ノートをつけてもらい主治医と共有することで、身体の状態に応じて透析液の種類・貯留時間・貯留量・交換回数などを調整できます。
訪問看護によって患者のサポートを行う場合には、腹膜透析の状況について主治医と訪問看護師が共有できる体制を整えることも重要です。
▼記録ノートの書き方や訪問看護によるケアについては、こちらの記事で解説しています。
②尿素窒素(UN)やクレアチニン(Cr)の量を測定する
尿素窒素(UN)やクレアチニン(Cr)の量は、腹膜透析によって老廃物を除去できているかを判断する基準となります。
排液や尿を検査して一定基準よりも数値が少ない場合には、透析が不十分になっている可能性があります。このような場合には、透析液の交換回数を増やしたり、イコデキストリン透析液を使用したりして除水量を増やす対処法が考えられます。
まとめ
この記事では、腹膜透析の透析液について以下の内容を解説しました。
- 腹膜透析に用いる透析液の種類
- 透析液を調整する際のポイント
- 腹膜透析で適正な体液量を維持する方法
日本の腹膜透析では、基本的に低濃度のブドウ糖透析液が使用されています。ただし、腹腔内に長時間貯留させるとブドウ糖が血中に吸収されて除水量が低下しやすいため、除水不足の場合にはイコデキストリン透析液が使用される場合があります。
患者の腹膜機能や体重などを踏まえたうえで、適正な除水量を確保できるように透析液の種類・透析方法を調整することが重要です。
また、体液管理を行うには、記録ノートを毎日記録してもらうとともに、定期的に排液や尿の検査を実施することがポイントです。訪問看護で腹膜透析のサポートを行う場合には、主治医と訪問看護師が連携できる体制を整備する必要があります。
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