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PDファーストとは。期待できることと導入時の注意点

日本では、透析による腎代替療法として“血液透析”と“腹膜透析”の2つがあり、透析患者のうちの9割以上が血液透析を受けています。

国内で腹膜透析を受ける患者は近年増加傾向にあるものの、2019年時点で9.920人と透析患者全体の約2.9%にとどまっています。

腹膜透析は血液透析と比べて日常生活での制約が少ないほか、残存腎機能の維持が期待されるため、予後の観点から“PDファースト”による初期段階での導入が重要とされています。

病院・訪問看護ステーションでは、患者の残腎機能や生活スタイル、年齢などを考慮して計画的に腹膜透析の導入時期を検討することが求められます。

この記事では、PDファーストによる透析療法の考え方や期待できること、事前に確認しておきたい注意点について解説します。

出典:厚生労働省『個別事項』『個別事項(その7)


目次[非表示]

  1. 1.PDファーストとは
  2. 2.PDファーストで期待できること
    1. 2.1.残存腎機能を保持しやすい
    2. 2.2.生活の質を維持しやすい
  3. 3.PDファーストを導入する際の注意点
    1. 3.1.➀残腎機能の評価を行う
    2. 3.2.②腹膜の機能を定期的に検査する
    3. 3.3.③衛生管理のための指導またはケアを行う
  4. 4.まとめ


PDファーストとは

PDファーストとは、末期腎不全に対する腎代替療法のうち腹膜透析を第一選択とする治療法の概念です。国内で行われている末期腎不全に対する腎代替療法には、3つの選択肢があります。


▼末期腎不全に対する腎代替療法の選択肢

腎代替療法
概要
腹膜透析(PD)
腹腔内に透析液を注入して貯留させることにより、腹膜を介して血液を浄化する方法
血液透析(HD)
血液を体外に取り出して、透析装置に通すことによって血液を浄化する方法
腎移植
生体腎移植または献腎移植によって腎機能を働かせる治療法


上記のうち、腹膜透析は残存腎機能の維持が期待される透析療法です。PDファーストによって残腎機能を有している患者に対して腹膜透析の導入を優先的に考慮することは、患者の予後に重要とされています。

出典:厚生労働省『個別事項』『個別事項(その7)』『腎代替療法について



PDファーストで期待できること

PDファーストでは、残腎機能が保持されている患者に対して腹膜透析を第一に導入して、状況に応じて血液透析への移行または併用を検討します。これにより、腹膜透析の利点を十分に生かしながら長期的な治療の継続につながると期待されます。


残存腎機能を保持しやすい

腹膜透析は、血液透析と比べて残存腎機能を長く保持しやすいと考えられています。残存腎機能とは、透析療法を導入したあとの腎機能を指します。

患者の残存腎機能は、腹膜透析を長く継続するうえで重要な位置を占めています。残存腎機能が維持されている時期に導入を開始することにより、尿量を保ちやすくなり、患者の予後にも影響をもたらすと考えられています。

なお、一般社団法人 日本透析医学会が作成した『腹膜透析ガイドライン2019』では、一日当たりの尿量が100mL以上の場合に残存腎機能を有すると定義されています。


生活の質を維持しやすい

PDファーストでは、生活の質(QOL:Quality of life)を維持しながら透析療法を継続することが可能です。

腹膜透析では、自宅や外出先で透析液のバッグ交換を行うことが可能です。血液透析と比較して日常生活の制約や食事・飲水の制限が少なく、行動の自由度が高くなります。


▼血液透析と腹膜透析の比較


血液透析
腹膜透析
通院回数
週に3回
月に1~2回程度
透析を行う場所
病院内
自宅や外出先
透析にかかる時間
4時間程度
30分程度(CAPDの場合)
食事・飲水の制限
蛋白・水・塩分・カリウム・リン
水・塩分・リン


血液透析の場合には、基本的に週3回の通院が必要になるほか、1回当たり4時間程度を透析室で過ごす必要があります。

これに対して腹膜透析は、自宅・外出先において30分程度でバッグ交換を行えます。夜の寝ている間に腹膜透析を行う“APD”のみであれば、日中は自由に行動することが可能です。

患者が自身の生活スタイルを維持しながら透析を受けられることは、精神的な満足度にも結びつくと考えられます。

なお、腹膜透析の方法についてはこちらの記事で詳しく解説しています。併せてご確認ください。

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出典:厚生労働省『個別事項



PDファーストを導入する際の注意点

PDファーストを検討する際は、残腎機能や腹膜の働きに応じて透析療法を選択するとともに、導入時期の合併症を防ぐための衛生管理が求められます。


➀残腎機能の評価を行う

PDファーストを検討する際には、事前に残腎機能の評価を行う必要があります。腹膜透析は、患者の残腎機能が維持されている時期に導入することが重要とされており、腎機能の程度は透析療法を選択する指標となります。

一般社団法人 日本透析医学会が作成した『腹膜透析ガイドライン2019』では、残腎機能の評価に“GFR(糸球体濾過量)”を基準とすることが推奨されています。


▼GFRの測定方法

  • 尿検査(24時間の蓄尿)
  • 血液検査


また、残存腎機能が予後にもたらす影響は大きいと考えられるため、自他覚症状が認められない場合でも、GFRが6.0mL/min/1.73m2未満の場合には腹膜透析の導入を考慮することが示されています。


②腹膜の機能を定期的に検査する

病院・訪問看護ステーションでは、PDファーストを導入する患者に対して定期的に腹膜の機能を検査して、働きや劣化の状態を確認することが重要です。

腹膜透析では体内の腹膜を利用して血液の浄化を行うことから、長期にわたって継続すると腹膜の機能が経時的に低下します。

また、腹膜の劣化によって“被囊性腹膜硬化症(以下、ESP)”という合併症を引き起こすリスクがあります。腹膜の機能やESPのリスクを踏まえたうえで、血液透析との併用または移行を検討することが必要です。

腹膜の機能を検査する方法にはいくつか種類がありますが、もっとも広く行われているのが“腹膜平衡試験(PET)”となっています。

なお、腹膜透析を行える期間についてはこちらの記事をご確認ください。

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③衛生管理のための指導またはケアを行う

腹膜透析の導入後は、衛生管理のための指導を患者・家族に行い、必要に応じて訪問看護師によるケアを実施することが重要です。

透析液のバッグ交換を行う際やカテーテル出口部などから腹腔内に細菌が侵入すると、腹膜炎を発症する可能性があります。頻回にわたって腹膜炎を発症すると、腹膜機能の低下やESPの進行につながるおそれがあるため、衛生管理を徹底して予防することが求められます。


▼腹膜透析での衛生管理を行うポイント

  • カテーテル出口部と皮下トンネル部分の観察を行う
  • 手指の消毒を行ってから透析液のバッグ交換を行う
  • バッグ交換を行う部屋を掃除して清潔に保つ など


また、排液の混濁や腹痛などの腹膜炎が疑われる症状がある場合には、主治医への相談と医療機関の受診を促して早期に治療することが重要です。

訪問看護師による腹膜透析患者へのケアについては、こちらの記事で解説しています。

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まとめ

この記事では、PDファーストについて以下の内容を解説しました。


  • PDファーストの概要
  • PDファーストで期待できること
  • PDファーストを導入する際の注意点


腹膜透析は、日常生活の制約が少なく食事・飲水の制限も緩やかなため、生活の質を維持しながら透析を行うことが可能です。血液透析と比べて患者の残存腎機能を保持しやすいことから、長く透析療法を継続するためにもPDファーストの考え方が重要といえます。

ただし、患者の残腎機能や腹膜の働きなどには個人差があるほか、長期の腹膜透析または頻回の腹膜炎によってEPSが発症するリスクがあります。PDファーストを導入する際は、事前に残腎機能の評価と定期的な腹膜機能の検査を行うとともに、衛生管理を徹底することが重要です。

また、患者自身で透析液のバッグ交換や衛生管理を行うのが難しい場合には、訪問看護師が主治医と連携してケアを実施することも求められます。

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