高齢者における腹膜透析の普及状況と注意点
人工透析治療の一種となる腹膜透析は、血液透析と比べて日常生活の制約が少ないことから、高齢者が生活の質を保ちながら行える治療法として注目されています。
病院や訪問看護ステーションの担当者のなかには、「高齢者の腹膜透析にはどのような特長があるのか」「高齢者への腹膜透析において注意点はあるのか」などと気になる方もいるのではないでしょうか。
この記事では、高齢者における腹膜透析の普及状況や特長、注意点について解説します。
出典:厚生労働省『個別事項(その7)』
目次[非表示]
- 1.高齢者における腹膜透析の普及状況
- 2.高齢者にやさしい腹膜透析
- 2.1.身体にかかる負担が少ない
- 2.2.通院回数が少なく自宅でできる
- 2.3.食事・飲水の制限が緩やかである
- 3.高齢者に腹膜透析を行う際の注意点
- 3.1.合併症のリスクがある
- 3.2.患者自身で透析管理を行えない場合がある
- 4.まとめ
高齢者における腹膜透析の普及状況
国内で人工透析治療を受ける患者は年々増加傾向にあります。
2019年時点における慢性透析患者数は約34万人に達しており、新規導入患者は年間約4万人となっています。また、慢性透析患者数の平均年齢は69.1歳、新規導入患者の平均年齢は70.4歳となり、透析患者全体の高齢化も進んでいます。
▼慢性透析患者数の推移
画像引用元:厚生労働省『中央社会保険医療協議会総会(第502回)議事次第』
一方で、腹膜透析治療を受ける患者は9,920人となっており、透析患者全体の約2.9%にとどまっています。
▼腹膜透析患者数の推移
画像引用元:厚生労働省『中央社会保険医療協議会総会(第502回)議事次第』
日本では、血液透析による人工透析治療がもっとも代表的とされており、広く普及しています。そのため、腹膜透析については透析患者の割合が少なく、高齢者に対する診療も十分に進んでいないことが分かります。
出典:厚生労働省『中央社会保険医療協議会総会(第502回)議事次第』『個別事項(その7)』
高齢者にやさしい腹膜透析
腹膜透析は、血液透析と比較して身体への負担が少なく生活の自由度が高いことから、高齢者の生活の質(QOL:Quality of life)を維持できる透析療法といえます。
身体にかかる負担が少ない
腹膜透析は、血液透析と比べて循環器系にかかる負担が少ないことが特徴です。
▼血液透析と腹膜透析の比較
血液透析 |
腹膜透析 |
|
手術の内容 |
シャント(バスキュラーアクセス)の実施 |
カテーテルの挿入 |
透析の頻度 |
週3回程度(1回4時間程度の通院治療) |
毎日(1日1~4回程度) |
血液透析では、体内から連続的に血液を取り出すためにシャント(バスキュラーアクセス)と呼ばれる血管の手術が必要になるほか、週3回程度の通院によって透析を行います。
腹膜透析の場合は、腹腔内にカテーテルを通して透析液を出し入れすることによって血液の浄化を行う仕組みとなり、シャントが不要となります。また、毎日こまめに透析を行うため、体への負担が少なく疲労感も抑えやすくなります。
出典:厚生労働省『中央社会保険医療協議会総会(第502回)議事次第』『個別事項』
通院回数が少なく自宅でできる
腹膜透析では、患者の自宅で透析液の交換を行えることから、通院の回数が月1~2回程度と少なくなります。
透析液のバッグ交換やカテーテルのケアなどを自宅で行うことによって高齢者の自立能力を生かせる、あるいは家族の支援を受けやすくなる利点があります。
また、患者自身で透析液の交換が難しい場合には、訪問看護師が自宅に出向いて医師と連携しながらサポートを行うことも可能です。高齢者が住み慣れた自宅で在宅医療を受けられるほか、患者の生活スタイルに合わせて腹膜透析の方式・回数を選択できるため、生活の質を維持することにつながります。
なお、腹膜透析の種類についてはこちらの記事で詳しく解説しています。併せてご確認ください。
出典:厚生労働省『中央社会保険医療協議会総会(第502回)議事次第』
食事・飲水の制限が緩やかである
腹膜透析は、血液透析と比べて食事・飲水の制限が緩やかなことも特徴の一つとして挙げられます。
▼血液透析と腹膜透析における食事・飲水の制限
血液透析 |
腹膜透析 |
|
制限の対象 |
たんぱく質・水・塩分・カリウム・リン |
水・塩分・リン |
腹膜透析では、たんぱく質やカリウムを多く含む食品の摂取について血液透析ほど厳しく制限されないことが一般的です。
出典:厚生労働省『中央社会保険医療協議会総会(第502回)議事次第』
高齢者に腹膜透析を行う際の注意点
高齢者に対して腹膜透析を行う際は、合併症のリスクや透析管理の問題があることを理解しておく必要があります。患者の状態や生活環境に応じた透析療法を選択するとともに、周囲のサポートが求められます。
合併症のリスクがある
腹膜透析には、合併症を発症するリスクが存在します。
▼腹膜透析における合併症の例
- 腹膜炎
- 被嚢性腹膜硬化症(EPS)
- 腹水過多
- 腹壁ヘルニア など
合併症が発症する原因には、透析液の交換時に細菌が侵入することや、腹膜透析を長く続けることによる腹膜の劣化などが考えられます。
透析液を交換する際には、手洗いとマスクの着用を行うとともに、部屋をこまめに掃除して清潔な環境を保つことや、カテーテルの出口部分についてケアを行うことが大切です。また、健康状態に変わりがある場合には主治医へ相談することも欠かせません。
なお、腹膜透析による合併症については、こちらの記事で詳しく解説しています。併せてご確認ください。
患者自身で透析管理を行えない場合がある
高齢者の場合、透析液の交換やケアなどを自身で行うことが難しいケースも少なくありません。患者自身で透析管理が難しい場合には、家族や訪問看護師などによるサポートが必要となります。
訪問看護師がサポートを行う際には、安全かつ清潔な環境で腹膜透析を行えるように、患者の健康管理や衛生管理などを行うことが欠かせません。また、主治医とこまめな情報共有を行い、的確なケアを行える体制を整えることも重要といえます。
なお、腹膜透析患者の訪問看護で行うことについては、こちらの記事をご確認ください。
まとめ
この記事では、高齢者の腹膜透析について以下の内容を解説しました。
- 高齢者における腹膜透析の普及状況
- 腹膜透析の特徴
- 高齢者に腹膜透析を行う際の注意点
腹膜透析は、血液透析と比較して体への負担が少ないほか、日常生活での自由度が高く食事の制限もゆるやかなことから、高齢者にやさしい透析療法といえます。
患者自身による透析管理やケアが難しい場合には、家族または訪問看護師によるサポートを行うことが重要です。
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