腎代替療法とは。基本的な概念とSDMの重要性について
腎臓は、尿を生成して過剰な水分・塩分や老廃物を体外に排出したり、血液を作るホルモンを分泌したり、生命維持のために重要な役割を担っています。腎臓の働きが低下して末期腎不全になった場合には、腎代替療法が検討されます。
病院・訪問看護ステーションでは、腎代替療法の選択肢について説明を行うとともに、患者の年齢や腎機能、社会的環境、生活スタイルなどを考慮して患者に合った治療法を共に選択することが大切です。
この記事では、腎代替療法の選択肢とSDMの重要性、指導管理に関する診療報酬について解説します。
出典:e-ヘルスネット『CKD/慢性腎臓病』
目次[非表示]
腎代替療法とは
腎代替療法とは、腎臓の働きを代替する治療法のことです。
末期腎不全の患者に対する腎代替療法には、人工的に腎機能を補う“血液透析”“腹膜透析”と、他人から1つの腎臓を譲り受ける“腎移植”があります。それぞれ手術の内容や通院回数、生活上の制約などが異なることから、患者に分かりやすく説明しておくことが重要です。
血液透析
血液透析は、血液を体外に取り出して透析装置に経由させることによって血液を浄化する透析方法です。動脈と静脈をつなぎ合わせた血管(シャント)を作製する手術を実施して、通院によって医療施設での透析を行います。
▼血液透析の概要
項目 |
概要 |
手術の内容 |
バスキュラーアクセス(小手術) |
通院回数 |
週3回 |
生活の制約 |
多い(週3回・1回4時間程度の通院) |
食事・飲水の制限 |
多い(たんぱく質・水分・塩分・カリウム・リンなど) |
国内で透析を受ける患者のうち9割以上が血液透析を受けており、腎代替療法に占める割合が多くなっています。
腹膜透析
腹膜透析は、腹腔内に透析液を注入して一定時間貯留させたあと排出することで、血液を浄化する透析方法です。
自宅や外出先において患者自身で透析液のバッグ交換を行えるため、血液透析と比べて日常生活の制約が少なく、患者の生活スタイルを維持しやすい透析方法とされています。
▼腹膜透析の概要
項目 |
概要 |
手術の内容 |
腹腔内へのカテーテル挿入(中規模手術) |
通院回数 |
月に1~2回程度 |
生活の制約 |
血液透析と比べて少ない |
食事・飲水の制限 |
やや多い(水分・塩分・リンなど) |
近年、腹膜透析を受ける患者の数は増加傾向にありますが、2019年時点では9,920人となっており、透析患者全体の約2.9%にとどまっています。
なお、腹膜透析の方法には日中に手動でバッグ交換を行う“CAPD”と、専用装置を用いて夜間の就寝中に自動で透析を行う“APD”、両方を併用した“CCPD”があります。
▼腹膜透析の種類や食事制限については、こちらの記事をご確認ください。
出典:厚生労働省『個別事項(その7)』
腎移植
腎移植は、他人から腎臓の提供を受けて移植する方法です。透析療法とは異なり、臓器移植によって腎機能が補われることから、末期腎不全に対する唯一の根本的な治療法とされています。
▼腎移植の概要
項目
|
概要 |
手術の内容 |
腎移植手術(大規模手術・全身麻酔) |
通院回数 |
月に1回(移植後1年以降) |
生活の制約 |
ほとんどない |
食事・飲水の制限 |
少ない |
腎移植の方法には、健康な親族から2つある腎臓のうち1つの提供を受ける“生体腎移植”と、脳死や心臓死になられた方から提供を受ける“献腎移植”があります。
なお、2019年時点の国内における生体腎移植の症例数は1,827例、献腎移植は230例となっており、透析患者数と比べると少なくなっています。
出典:厚生労働省『個別事項(その7)』『腎代替療法について』
腎代替療法におけるSDMの重要性
腎代替療法を提案する際は、SDM(Shared decision making:共同意思決定)の考え方に基づいて患者を尊重した治療法を検討することが重要です。SDMとは、患者と医師や専門職が協力しながら、一緒に治療法の意思決定を行うことです。
医学的な判断によって選択肢を提案するだけでなく、患者と双方向の情報交換を行いながら、患者の価値観や希望に合った治療方針を比較検討することにより、生活の質(QOL:Quality of life)の向上につながると考えられます。
▼SDMに取り組む際のポイント
- 腎代替療法の各治療法を分かりやすく解説した資料を作成・共有する
- 各治療法のメリット・デメリットを伝える
- 患者の生活スタイルや性格、経済状況、懸念事項などをヒアリングする
- 医学的な数値や医師の経験に基づいた提案を示す など
意思決定を行う際は、医師だけで判断するのではなく、各治療法のメリット・デメリットを共有して患者との話し合いによって合意形成を図ることがポイントです。
腎代替療法の指導管理は診療報酬の評価対象となる
診療報酬制度には、腎代替療法の指導管理に関する評価が設けられています。
▼腎代替療法に関する主な評価
評価
|
算定要件 |
点数 |
腎代替療法指導管理料 |
慢性腎不全の患者に腎代替療法に関する説明・情報提供を行った場合 |
500点 |
また、在宅で血液透析や腹膜透析を行う患者に対して、継続的な遠隔モニタリングを実施して指導を行った場合には、“遠隔モニタリング加算”を算定できます。
算定には、注液量・排液量・除水量・体重・血圧・体温などの様態を継続的にモニタリングすることが要件に含まれています。訪問看護師がサポートを行う際には、主治医と訪問看護師で患者の状態をリアルタイムに共有できる体制を整えることがポイントです。
出典:厚生労働省『個別事項』『個別事項(その7)』『令和6年度診療報酬改定の概要』
まとめ
この記事では、腎代替療法について以下の内容を解説しました。
- 腎代替療法の選択肢
- 腎代替療法におけるSDMの重要性
- 腎代替療法に関する診療報酬の評価
日本では、腎代替療法として血液透析・腹膜透析・腎移植といった3つの選択肢があり、治療法によって手術の規模や生活上の制約などが異なります。
末期腎不全の患者に対して腎代替療法を提案する際は、SDMによる意思決定のプロセスに基づいて患者に合った治療法を検討することが重要です。医学的な観点だけでなく、患者の生活スタイルや価値観なども踏まえて治療法を選択することで、生活の質向上につながります。
また、腎代替療法の説明・情報提供や在宅での透析について指導管理を行った場合には、診療報酬を算定できます。訪問看護を実施する場合には、遠隔でのモニタリングを継続的に行える体制を整備することが必要です。
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