腹膜透析ガイドラインとは。腹膜透析療法における重要な7つの項目について
透析患者の生活の質(QOL:Quality of life)を維持しやすい腹膜透析は、腎代替療法の初期段階での導入や終末期における在宅医療の選択において、大きな意味を持つようになりました。
日本透析医学会では、医療従事者が腹膜透析に対する正しい情報提供や患者への教育、観察などを行うための指針として『腹膜透析ガイドライン』を発表しています。
病院・訪問看護ステーションでは、透析患者の治療選択や継続中のケアを行うにあたって、腹膜透析ガイドラインでどのような指針が示されているのか把握しておくことが重要です。
この記事では、腹膜透析ガイドライン2019で示されている7つの項目について解説します。
出典:厚生労働省『個別事項(その7)』
目次[非表示]
- 1.腹膜透析ガイドラインとは
- 2.腹膜透析ガイドライン2019で示されている7つの管理指針
- 2.1.➀計画的な導入
- 2.2.②適正透析の管理
- 2.3.③栄養状態の管理
- 2.4.④腹膜機能の評価
- 2.5.⑤腹膜透析の中止条件
- 2.6.⑥腹膜炎の予防管理
- 2.7.⑦カテーテル・出口部の衛生管理
- 3.まとめ
腹膜透析ガイドラインとは
腹膜透析ガイドラインは、腹膜透析患者の予後を改善させるにあたって、適切な管理・治療を行うための情報を医師や看護師をはじめとする医療従事者へ提供することを目的に作成されました。
当ガイドラインは2019年版が最新となっており、前回の2009年版から約10年を経て改訂が行われました。
▼改訂が行われた背景
- 前回の策定から約10年が経過して、ガイドラインには記載がない多くのエビデンスが報告されるようになった
- 既存の診療ガイドライン(CPG)に対する定義や作成プロセスが厳格化したことにより、従来の作成方法・体裁では流れに沿わなくなった
2019年版では、学術委員会や外部委員による協力のうえで、2009年版の記述を基本として追記・改変が行われています。
腹膜透析ガイドライン2019で示されている7つの管理指針
腹膜透析ガイドライン2019は、腹膜透析の管理指針を示すPart1と、課題とシステマティックレビューによる系統的・明示的な選択や評価などを行うシステマティックレビューが記載されたPart2で構成されています。
ここでは、病院・訪問看護ステーションの医師や看護師への管理指針が示されているPart1について解説します。
なお、2019年版では、前回の2009年版に加えて腹膜透析に関連する感染症(PD関連感染症)とカテーテル関連の2項目が追加されており、全部で7つの項目にまとめられています。
▼腹膜透析ガイドライン2019のにおける7項目
- 計画的な導入
- 適正透析の管理
- 栄養状態の管理
- 腹膜機能の評価
- 腹膜透析の中止条件
- 腹膜炎の予防管理
- カテーテル・出口部の衛生管理
➀計画的な導入
1つ目は、腹膜透析の計画的な導入についてです。
腎代替療法の選択肢と利点や欠点を説明し、患者本人や家族、保護者、介護者などが十分に理解したうえで選択できるように指導することが重要です。
また、腹膜透析は残存腎機能が維持されている時期に計画的に導入することが、合併症の回避や生命予後に重要と確認されています。
▼計画的な導入に関する主なポイント
- 情報提供・同意の取得については医療従事者を含めたチームで行う
- 腹膜透析・血液透析・腎移植のそれぞれの利点・欠点を説明して、十分な理解と選択を促すように指導する
- 腎機能の評価や臨床症状に応じて適切な時期に計画的な導入を行う
- 導入前には患者への教育を行う
②適正透析の管理
2つ目は、適正透析を管理するための考え方について示されています。
腹膜透析の適正透析に関しては明確な定義は確立されていないため、腹膜による物質除去・除水や循環動態、血液透析との併用療法といった3つの視点で管理指針が示されています。
▼適正透析の管理に関する主なポイント
- 尿素や透析液排液量などを踏まえて、十分な透析量を確保できる透析液・交換回数・貯留時間などを設定する
- 日・週・季節変動などを考慮して血圧管理を行う
- 体液量の過剰は高血圧を招くため、適正体重を維持する
- 腹膜透析のみで除水不足や水分過剰状態になる場合には、血液透析との併用療法を検討する
③栄養状態の管理
3つ目は、栄養状態の管理についてです。
栄養障がいは生命予後や生活の質にも影響を与えるため、患者一人ひとりの栄養状態を定期的に評価して食事に関する指導を行うことが重要と示されています。
▼栄養管理に関する主なポイント
- 除水不足による体液過剰を防ぐために、食塩の摂取量を制限する
- 患者の年齢・性別・身体活動レベルに応じてエネルギー量を設定する
- 腹膜機能やエネルギー量を考慮したうえでたんぱく質の摂取量を調整する
- 定期的に身体計測や血液検査、尿検査を実施して栄養の適正量を見直す
▼腹膜透析の食事制限についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
④腹膜機能の評価
4つ目は、腹膜機能の評価についてです。ほか、透析の継続に伴って経時的に変化します。透析液の貯留時間・交換回数・濃度・量などを適正に設定するには、腹膜機能を定期的に評価することが望ましいと示されています。
▼腹膜機能に関する主なポイント
- 腹膜機能評価法にはいくつかの確立された方法がありそれぞれに特徴がある。なかでも腹膜 平衡試験(PET)が最も広く行われている。
- 腹膜透析による除水量は、個人の腹膜機能によって左右される
- 排液中バイオマーカーの研究が行われており、PETとともに新たな腹膜機能評価法になることが期待されている
⑤腹膜透析の中止条件
5つ目は、腹膜透析の中止条件についてです。
長期にわたる腹膜透析や腹膜炎を繰り返すと、腹膜の劣化につながり“被嚢性腹膜硬化症(以下、EPS)(※)”という合併症を引き起こす可能性があります。EPSを回避するために、腹膜劣化の進行が疑われる場合に腹膜透析の中止を検討することが示されています。
▼腹膜透析の中止条件に関する主なポイント
- PET(腹膜平衡試験)による腹膜機能評価を定期的に実施する
- 腹腔鏡検査・腹膜生検検査・排液中の中皮細胞診によって腹膜の形態評価を実施する
- 腹膜炎とEPSへの進展を予防するためのフローを確立する
▼腹膜透析を続けるための処置についてはこちらの記事で解説しています。
※EPSとは、腸管周囲の腹膜が広範囲に癒着する合併症のこと
⑥腹膜炎の予防管理
6つ目は、腹膜炎の発症を予防するための管理についてです。
腹膜透析に関連する腹膜炎は、腹膜機能の低下やEPSへの進展、血液透析の移行などにつながる原因となります。腹膜炎の感染経路を踏まえて日々の予防を行うとともに、観察による早期発見と早期治療が重要とされています。
▼腹膜炎管理に関する主なポイント
- 腹膜炎の感染経路は外因性と内因性に分類される
- 腹痛や排液混濁が見られる場合には、腹膜炎が疑われる
- 腹膜炎が疑われる場合には、排液の検査を行う
- 腹膜炎の診断後は、起因菌の検査を踏まえて抗菌薬や治療期間、予防策を検討する
⑦カテーテル・出口部の衛生管理
7つ目は、カテーテル・出口部の管理についてです。
腹膜透析を安定かつ衛生的に行うには、清潔操作が重要とされます。腹腔内へのカテーテル挿入術の前後と継続期に適切なケアを行い、カテーテルの位置異常や出口部の感染症などを防ぐことが求められます。
▼カテーテル・出口部の管理に関する主なポイント
- カテーテル挿入術前に治療中の疾病や手術既往などを確認する
- カテーテル挿入のデザインが術後の位置異常に関係する
- 感染症の予防のために、カテーテルや出口部のケアを行う
- 出口部や皮下トンネル部分に炎症の所見が見られる場合には、抗菌薬の投与を検討する
まとめ
この記事では、腹膜透析ガイドラインについて以下の内容を解説しました。
- 腹膜透析ガイドラインの概要
- 腹膜透析ガイドライン2019で示されている7つの管理指針
腹膜透析ガイドラインでは、腎代替療法の選択から導入に関する望ましい対応や、継続中の観察・管理項目などについてまとめられています。
病院・訪問看護ステーションは、ガイドラインの管理指針に沿って腹膜透析患者の継続的な観察ときめ細かなケアを行うことが求められます。そのためには、医療従事者間のチームで円滑に情報共有を行える体制を整えておくことも重要です。
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