SDM(共同意思決定支援)における看護師の役割。患者と対話するプロセスとは
患者における治療法の選択は、生命予後のほかにも生活の質(QOL:Quality of life)を左右する重要な要素といえます。
医療従事者には、医学的な根拠だけでなく患者の生活に与える影響や価値観なども踏まえて希望に合った治療法を選択することが求められます。そこで注目されている概念が“SDM(共同意思決定支援)”です。
病院・訪問看護ステーションの管理者のなかには、質の高い医療の提供に向けて「SDMとはどのような概念なのか」「看護師は何をすればよいのか」と理解を深めたいという方もいるのではないでしょうか。
この記事では、SDMの概念や意思決定のプロセス、SDMの課題、看護師に求められる役割について解説します。
目次[非表示]
- 1.SDMとは
- 2.SDM のスリー・トーク・モデル
- 2.1.①チーム・トーク
- 2.2.②オプション・トーク
- 2.3.③ディシジョン・トーク
- 3.SDMを進めるうえでの課題
- 4.SDMにおける看護師の役割
- 5.まとめ
SDMとは
SDMとは、“Shared decision making(共同意思決定支援)”の略で、医療従事者チームと患者が互いに情報共有をして医療の意思決定を行うプロセスを指します。
医療における意思決定のプロセスには、SDMのほかにも“インフォームドディシジョンモデル”や“パターナリズム”があります。
▼医療における意思決定のプロセス
意思決定のプロセス |
概要 |
最終決定 |
SDM |
複数の医療従事者と患者・家族が十分に相談したうえで患者にとって最良な治療方針を決定する |
医師・患者 |
インフォームドディシジョンモデル |
医師が必要な情報と選択肢を提供して、患者が治療方針の意思決定を行う |
患者 |
パターナリズム |
医師が医学的な根拠・経験・知識などに基づいて、最善と判断した治療方針を決定する |
医師 |
生命予後や生活スタイルを左右する治療方針の決定が必要になったとき、医師の経験・医学的な根拠のみに基づいた判断が必ずしも患者にとってよい選択になるとは限りません。
SDMでは、治療方針の決定について患者による積極的な参加を重要としています。医療に関する情報提供を丁寧に行い、患者の生活環境・価値観・意向などについてよく話し合ったうえで治療方針を決定することで、患者の満足度や生活の質向上につながると考えられています。
なお、SDMが取り入れられる対象は、腎代替療法やがんの治療選択、日常診療における治療方針など幅広くなっています。
SDM のスリー・トーク・モデル
医療現場では、SDMを実践するさまざまな手法が取り入れられていますが、代表的なものに“スリー・トーク・モデル”があります。3段階のステップで患者と双方向のコミュニケーションをとり、意思決定に必要な情報共有を行います。
①チーム・トーク
チーム・トークは、意志決定が必要な問題があることを患者に伝えるとともに、治療方針に関する意向を確認するためのステップです。
意思決定について医師だけでなく患者も当事者になることを伝えて、医療従事者間と患者の信頼関係を構築する必要があります。
▼チーム・トークを実施する際のポイント
- 意思決定が必要な問題に対して患者の価値観・気持ちが重要なことを伝える
- 具体的な話し合いを進める心の準備ができているかを判断する
- 治療方針について患者がどのように決定したいか意向を確認する
- 患者が迷っている場合には、考える時間を取ってよいことを伝える
②オプション・トーク
オプション・トークは、治療方針に関する選択肢を分かりやすい資料や言葉で説明して、患者に理解を深めてもらうステップです。
それぞれの選択肢における利点・欠点や比較に役立つ情報を共有したうえで、患者が十分に理解できているか評価を行います。
▼オプション・トークを実施する際のポイント
- 患者と医療従事者間で選択肢を共有する
- 意思決定支援ツールを活用して選択肢を分かりやすく説明する
- 説明後に患者の知識・理解度を確認する
治療方針や医療に関する情報は、医療従事者が口頭で伝えても患者にうまく伝わらない可能性があります。説明を行ったあとは、“ティーチバック”という手法を用いて理解度を確認することがポイントです。
ティーチバックとは、医療従事者が説明した内容を患者に再度説明し直してもらう手法です。患者の言葉で説明してもらうことで、「分かりましたか?」という質問に対して理解していないにもかかわらず「はい」と回答してしまうのを防げます。
なお、オプション・トークに活用できる意思決定支援ツールについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
③ディシジョン・トーク
ディシジョン・トークは、オプション・トークで共有した治療方針の選択肢について、患者の意向を明らかにして意思決定を下すステップです。
患者に対して「何がもっとも大切か」を尋ねて、治療方針に対して深く考えるきっかけを提供することが重要といえます。
▼ディシジョン・トークを実施する際のポイント
- 治療方針の各選択肢に関する考えや生活への影響について、患者の言葉で意見を述べてもらう
- 患者の価値観・懸念事項を聞き出して、医師の経験を踏まえた提案を行う
- 不安や疑問がある場合には、いつでも相談に応じることを伝える
- 最終決定に至ったあとでも選択を変更できることを伝える
SDMを進めるうえでの課題
医療現場でSDMを進める際には、以下のような課題が生まれることがあります。
▼課題
- SDMに基づいた情報提供や話し合いができる医療従事者が不足している
- SDMを実施する時間が足りない
- 医療従事者間の情報共有が十分でない など
医療従事者によってSDMのコミュニケーションスキルに差がある場合には、患者に対する聞き取りが不十分になる可能性があります。SDMに関する勉強会や研修に参加したり、対応手順のマニュアルを作成したりすることが必要です。
また、患者の希望・価値観を尊重した意思決定を行うには、時間をかけて話し合いを行うことが大切です。医療現場が忙しくSDMを実施する時間が足りない場合には、意思決定支援ツールや教育入院を活用して、事前に知識を深めてもらう方法もあります。
また、SDMのチームとして意思決定を支援するには、主治医だけでなく看護師・専門職などと円滑な情報共有を行える体制づくりも求められます。
SDMにおける看護師の役割
SDMを実践するにあたって、看護師は意思決定を行う医療従事者のチームとして欠かせない存在となります。
▼SDMにおける看護師の役割
- 医療従事者における身近な存在として、患者や家族に寄り添う
- 主治医やほかの専門職との橋渡しを行う
看護師は、日常的なケアや相談などによって患者と接する時間が長く、精神的な距離も近くなりやすいと考えられます。
身近な存在といえる看護師が、SDMにおいて患者やその家族とのコミュニケーションに参加することで、治療に対する考え方や抱えている悩み・不安などを話してもらいやすくなります。
また、SDMに取り組む際は、治療法の選択肢や患者の意向について医療従事者間で共有することが欠かせません。看護師は、主治医だけでなく訪問看護師や理学療法士などのさまざまな専門職と連携して、チーム全体の橋渡し役となることが求められます。
まとめ
この記事では、SDMについて以下の内容を解説しました。
- SDMの概要
- SDMのスリー・トーク・モデル
- SDMを進めるうえでの課題
- SDMにおける看護師の役割
腎代替療法やがんの治療選択などにおいてSDMを取り入れる際は、医療従事者と患者が協働で意思決定を行えるように、十分な情報共有と密なコミュニケーションをとることが求められます。
特に看護師においては、患者と家族に寄り添って話し合い進めたり、医療従事者間の連携について橋渡しを行ったりする役割が期待されます。主治医や専門職との円滑な情報共有を行うには、アプリケーションを活用することも有効です。
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