腹膜透析患者への訪問看護において医療保険は適用される? 患者の自己負担額を解説
腹膜透析患者のなかには、高齢や認知症などによって自身でのバッグ交換・ケアを行うことが難しいケースがあります。
医療保険では、疾病または負傷によって在宅で継続した療養が必要な人に対して、一定の条件に該当する場合に給付による訪問看護の提供が行われます。
病院・訪問看護ステーションの担当者は、腹膜透析患者に対する医療保険の取り扱いや自己負担額について理解を深めて、正しい情報提供とサポートができるようにしておくことが重要です。
この記事では、腹膜透析患者への訪問看護における医療保険の取り扱いや患者の自己負担額について解説します。
なお、腹膜透析患者の訪問看護で行うことについては、こちらの記事で解説しています。併せてご確認ください。
出典:厚生労働省『訪問看護』
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腹膜透析患者の訪問看護に関する医療保険の取り扱い
腹膜透析患者は、厚生労働大臣が定める『特掲診療料の施設基準等別表第8』に掲げる“在宅自己腹膜灌流指導管理”に該当するため、医療保険の給付によって訪問看護を受けられます。
▼特掲診療料の施設基準等別表第8
|
※厚生労働省『令和6年度診療報酬改定の概要』を基に作成
ただし、患者の年齢や身体の状態によっては医療保険ではなく介護保険が適用される場合もあります。医療保険と介護保険のどちらが適用されるかについては、以下の対象者によって異なります。
▼腹膜透析患者の訪問看護における医療保険と介護保険の適用
対象者 |
適用される保険 |
特別訪問看護指示書の交付を受けた人 |
医療保険 |
65歳以上で要介護認定を受けていない人 |
医療保険 |
65歳以上で要介護認定を受けている人 |
介護保険 |
特別訪問看護指示書とは、患者の主治医が診療に基づいて一時的に頻回の訪問介護が必要と判断した場合に訪問看護ステーションに対して交付する指示書です。交付を受けている腹膜透析患者は、年齢を問わず医療保険の適用となります。
また、65歳以上で要介護認定を受けている人については、基本的に介護保険が適用されます。
出典:厚生労働省『令和6年度診療報酬改定の概要』『特掲診療料の施設基準等』
医療保険による訪問看護の自己負担額の割合
腹膜透析患者の治療費や訪問看護費は、医療保険の給付によって自己負担額が1~3割まで軽減されます。年齢や所得によって自己負担額の割合が変わる仕組みとなっています。
▼医療費の自己負担割合
年齢層 |
一般・低所得者 |
現役並み所得者 |
75歳以上 |
1割 |
3割 |
70~75歳未満 |
2割 |
|
6~70歳未満 |
3割 |
|
6歳まで |
2割 |
※厚生労働省『医療費の自己負担』を基に作成
また、腹膜透析患者においては腹膜透析の医療費に関する自己負担を軽減するための公的な制度を利用することが可能です。
▼医療費の自己負担を軽減する公的な制度
制度 |
概要 |
高額療養費制度 |
医療機関や薬局の窓口で支払った1ヶ月の医療費が自己負担限度額を超えた際に、保険者によって一部が払い戻される制度 |
自立支援医療制度(更生・育成) |
心身の障がいを除去・軽減するための医療を行った際に医療費の自己負担額を軽減する制度 |
心身障がい者医療費助成制度(※)
|
心身に障がいがある人が支払った医療費の自己負担額を都道府県・市区町村が助成する制度 |
高額療養費制度では、腹膜透析患者が“特定疾病療養受療証”の交付申請を行うことによって医療費の自己負担が原則1ヶ月1万円までとなります。
また、自立支援医療制度(更生・育成)は、腹膜透析患者で身体障がい者手帳の交付を受けている人や18歳未満の児童が対象です。医療費の自己負担は原則1割とされています。
心身障がい者医療費助成制度では、腹膜透析患者が身体障がい者手帳1・2級に認定されている場合に助成の対象となることが一般的です。都道府県・市区町村によって対象となる障がいの程度や助成内容は異なるため、詳しくはお問い合わせください。
※都道府県・市区町村によって助成制度の名称が異なる場合があります。
出典:厚生労働省『医療費の自己負担』『自立支援医療制度の概要』『自立支援医療の患者負担の基本的な枠組み』
腹膜透析患者に対する訪問看護の注意点
腹膜透析患者に対する訪問看護では、医療保険による回数制限や介護保険の取り扱いについて注意が必要です。
➀訪問看護の回数制限には例外がある
医療保険の給付対象となる訪問看護では、原則として週3日以内の訪問回数が定められています。ただし、以下に該当する人については回数の制限なく訪問看護を実施することが可能となっています。
▼訪問看護の回数制限が例外となる人
- 特別訪問看護指示書の交付がある人
- 厚生労働大臣が定める別表第8に該当する人
腹膜透析患者の場合には、1週間の訪問回数に制限がなくなるほか、1日2回または3回の訪問看護を実施することも可能です。主治医の指示によって訪問看護の回数が定められます。
なお、医療保険と介護保険による訪問看護の回数制限については、こちらの記事で詳しく解説しています。併せてご確認ください。
出典:厚生労働省『令和6年度診療報酬改定の概要』
②特定の疾病を患っている場合には医療保険が優先される
65歳以上で要介護認定を受けている人は、訪問看護の給付について基本的に介護保険が適用されます。ただし、現時点において、腹膜透析は対象外とされています。
なお、『厚生労働大臣が定める疾病等(別表第7)』に該当する人については、介護保険ではなく医療保険が適用される仕組みとなります。
▼厚生労働大臣が定める疾病等(別表第7)
末期の悪性腫瘍
多発性硬化症
重症筋無力症
スモン
筋萎縮性側索硬化症
脊髄小脳変性症
ハンチントン病
進行性筋ジストロフィー症
パーキンソン病関連疾患
多系統萎縮症
|
プリオン病
亜急性硬化性全脳炎
ライソゾーム病
副腎白質ジストロフィー
脊髄性筋萎縮症
球脊髄性筋萎縮症
慢性炎症性脱髄性多発神経炎
後天性免疫不全症候群
頸髄損傷
人工呼吸器を使用している状態
|
※厚生労働省『令和6年度診療報酬改定の概要』を基に作成
出典:厚生労働省『令和6年度診療報酬改定の概要』
まとめ
この記事では、医療保険における腹膜透析患者の訪問看護について以下の内容を解説しました。
- 腹膜透析患者の訪問看護に関する医療保険の取り扱い
- 医療保険による訪問看護の自己負担額の割合
- 腹膜透析患者に対する訪問看護の注意点
腹膜透析患者に対する訪問看護は、要介護認定を受けていなければ医療保険が適用されます。腹膜透析にかかる医療費の自己負担を軽減するための公的な制度も存在するため、訪問看護によって発生する患者の金銭的な負担は少なくなります。
また、医療保険による訪問看護の回数上限も例外となり、主治医の指示に基づいて制限なく実施することが可能です。
病院・訪問看護ステーションの担当者は、患者の状態を踏まえて医師による訪問看護の回数設定や指示書の交付などを行えるように、円滑に情報共有を行える仕組みを整えることが重要です。
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