僻地医療の課題。持続可能な医療体制を構築するには
近隣に医療機関がない僻地においては、地域住民に対して十分な医療を提供するために、病院・診療所が行政機関と連携して効率的かつ持続的な医療体制を構築することが求められます。
病院・訪問看護ステーションの担当者のなかには「僻地医療ではどのような課題が顕在化しているのか」「医療体制を強化するための施策はないか」と調べている方もいるのではないでしょうか。
この記事では、僻地医療の課題と持続可能な医療体制を構築するためのポイントについて解説します。
なお、僻地医療に従事する看護師の課題についてはこちらの記事で解説しています。併せてご確認ください。
目次[非表示]
- 1.僻地医療の課題
- 1.1.人材が不足している
- 1.2.医療拠点が不足している
- 1.3.診療科が偏在している
- 2.僻地で持続可能な医療体制を構築するには
- 2.1.➀オンライン診療を導入する
- 2.2.②ドローンによる医薬品輸送を実施する
- 2.3.③多職種連携を強化する
- 3.まとめ
僻地医療の課題
僻地医療では、医療資源の確保に関する課題が顕在化しています。
人材が不足している
僻地医療を担う医師が不足している課題があります。
僻地に暮らす住民へ基礎的な医療を提供する役割を持つ“僻地診療所”は、2021年4月1日の時点で1,108箇所あります。しかし、常勤医師については0または1人となり、少人数で運営している施設が多くなっています。
▼僻地診療所における常勤医師数
画像引用元:厚生労働省『へき地の医療について』
また、僻地医療の拠点として都道府県に指定される“僻地医療拠点病院”では、僻地診療所に対する医師派遣や巡回診療などを行うことが必須とされています。
一方、主要3事業のうち各事業の実施率は約1.5~4割にとどまっており、医師を十分に確保できていないことがうかがえます。
▼僻地医療拠点病院における主要3事業の実施状況(年12回以上)
主要3事業 |
医師派遣 |
巡回診療 |
代診医派遣 |
|
実施施設数 |
256 |
134 |
88 |
55 |
実施率 |
74.2% |
38.8% |
25.5% |
15.9% |
医師派遣や巡回診療などが十分に行われていない地域では、僻地診療所で専門的な医療を受診する機会を提供できないほか、在宅医療を希望する患者への支援も難しくなることが懸念されます。
また、人手不足が原因となって現場の医師や看護師の長時間労働を招いているケースも考えられます。
出典:厚生労働省『へき地の医療について』『へき地の医療提供体制について』
医療拠点が不足している
僻地医療の拠点となる病院・診療所が不足していることも課題の一つです。
近年、医療機関がない無医地区数は減少傾向にありますが、僻地医療拠点病院の多くは病床数が400床未満の小~中規模の施設となっているほか、僻地診療所については病床がない施設がほとんどです。
▼【病床数別】僻地医療拠点病院の施設数
画像引用元:厚生労働省『へき地の医療について』
▼【病床数別】僻地診療所の施設数
画像引用元:厚生労働省『へき地の医療について』
なかでも過疎地域や山岳地域においては高齢者の独居または老老世帯が多く見られており、ケアを行う家族がいない場合も少なくありません。
出典:厚生労働省『へき地の医療について』
診療科が偏在している
僻地医療では、受診できる診療科が偏在しやすい課題があります。
厚生労働省の『令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況』によると、診療科によって医療機関に従事する医師数の割合に大きな差があります。
▼【診療科別】医師数の割合(全科を除く)
区分 |
診療科 |
医師数の割合 |
上位5位 |
1.内科 |
28.3% |
2.消化器内科(胃腸内科) |
9.1% |
|
3.小児科 |
8.2% |
|
4.外科 |
7.2% |
|
5.循環器内科 |
6.9% |
|
下位5位 |
1.気管食道外科、産科 |
0.2% |
2.臨床検査科 |
0.3% |
|
3.小児外科 |
0.4% |
|
4.感染症内科、美容外科 |
0.5% |
|
5.病理診断科、集中治療科 |
0.7% |
厚生労働省『令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況』を基に作成
また、都道府県によって人口10万人に対する医師数にも差があります。
▼【都道府県別】 人口10万人に対する医師数
画像引用元:厚生労働省『令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況』
もっとも医師数が多い徳島県では335.7人の医師がいるのに対して、もっとも少ない埼玉県では180.2人となっており、地域によって差があることが分かります。
特に僻地においては医師全体の数が不足していることから、病院・診療所が対応できる診療科についても偏在しやすいと考えられます。
出典:厚生労働省『令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況』
僻地で持続可能な医療体制を構築するには
僻地医療の課題を解決するには、限られた人材を有効活用するとともに、現場の医療従事者が効率的に業務を行える環境を構築することが重要です。
➀オンライン診療を導入する
オンライン診療は、スマートフォンのアプリケーションやSNS、専用のシステムなどを利用して遠隔地にいる医師が診療を行う方法です。
実施方法については主に4つの類型があり、訪問看護の現場では“D to P with N”での活用も期待されています。
▼オンライン診療の類型
類型 |
概要 |
D to P |
医師と患者間で相談や定期処方薬の処方などを行う |
D to P with D |
患者が遠隔地にいる医師の診療を受ける際に、主治医が同席する |
D to P with N |
患者が遠隔地にいる医師の診療を受ける際に、看護師が同席して診療の補助を行う |
D to D |
僻地にある病院・診療所の医師間で相談をしたり、専門医から助言・指導を受けたりする |
オンライン診療ができるようになると、巡回診療による医師の移動時間や業務負担の短縮につながるほか、在宅医療を希望する患者に対して定期的な診療を継続することが可能です。
②ドローンによる医薬品輸送を実施する
ドローンを用いて医薬品の輸送を行う方法も考えられます。
▼ドローンの活用例
- オンライン診療後に薬局から処方薬を輸送する
- 無医地区への巡回診療後に必要な医薬品を輸送する など
薬局がない市区町村や、院内での調剤を行う僻地医療拠点病院への通院が難しい場合などに、医薬品を迅速に届けることが可能です。
ただし、ドローンを用いて医薬品を輸送する場合には、薬剤の品質確保や患者のプライバシー保護などを考慮して慎重に取り扱うことが求められます。
③多職種連携を強化する
僻地における医師不足や診療科の偏在などといった課題を解決するには、病院・診療所と多職種による連携を強化することが重要です。
▼ICTを活用した多職種連携の例
- 介護施設と連携して入所者へのオンライン診療を実施する
- 訪問看護ステーションと連携して入院から在宅医療への移行に必要な情報を共有する
- 訪問看護師が測定した患者の情報を僻地診療所の主治医に共有する など
ICTを活用して患者の情報を多職種で共有できるネットワークを構築することで、現場業務の効率化ときめ細かな医療サービスの提供につながります。
多職種連携がうまくいかない原因ついてはこちらの記事で解説しています。
また、多職種連携を円滑に行う方法についてはこちらの記事で解説しています。併せてご確認ください。
まとめ
この記事では、僻地医療の課題について以下の内容を解説しました。
- 僻地医療の課題
- 僻地での持続可能な医療体制を構築するポイント
僻地では、医師や医療拠点の不足、診療科の偏在などの課題が顕在化しており、効率的かつ持続的な医療体制を整備することが求められています。
オンライン診療やドローンによる医薬品輸送などのICTを活用することで、限られた人材・時間を有効活用でき、医師不足の解消と現場の負担軽減を図れます。
また、病院・診療所間や訪問看護ステーション、介護施設などの僻地医療を支える多職種と連携することもポイントです。患者の情報を円滑に共有できると、入退院の手続きや在宅医療への移行、訪問看護でのケアをスムーズに行えます。
僻地にある病院・診療所と訪問看護ステーションとの連携を強化するには、専用のアプリケーションを活用することが有効です。
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詳しくは、こちらの資料をご確認ください。