ACP(人生会議)とは。透析療法を始める前に共有しておきたい基本的概念
末期腎不全の患者を対象とした腎代替療法の選択は、生命予後や生活スタイルに影響する重要な決断といえます。
患者本人とその家族にとって不安が大きいと考えられるため、よく話し合ったうえで患者にとって最善の治療法を選択することが重要といえます。
患者が望む医療・ケアを選択するための取り組みに、“ACP(advance care planning:人生会議)”があります。
この記事では、ACPの基本的な概念や取り組み方、透析患者に対して配慮が必要なことについて解説します。
目次[非表示]
- 1.ACPとは
- 2.ACPの取り組みがもたらすよい影響
- 3.医療現場におけるACPの取り組み方
- 3.1.➀患者の価値観を理解する
- 3.2.②代理決定者の選定と意向の共有を行う
- 3.3.③話し合いのプロセスを記録・共有する
- 4.透析療法を検討している患者のACPで配慮が必要なこと
- 5.まとめ
ACPとは
ACPとは、患者本人が望む医療・ケアを自身で考えて、家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合いながら共有する取り組みのことです。
▼ACPの定義
「人生会議」とは、もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組のことです。
引用元:厚生労働省『「人生会議」してみませんか』
生命予後に影響する重要な選択が必要になったとき、約70%の患者が自分自身による意思決定を行うことができなくなるといわれています。
患者が望む今後の治療法や療養について、患者と信頼できる家族、医療従事者があらかじめ話し合うことで、患者の意向を意思決定に反映できるようになります。
また、患者自らで意思決定ができなくなったときに備えて、代わりに意思決定を行える信頼できる人を選定しておくこともACPにおいて重要とされています。
出典:厚生労働省『「人生会議」してみませんか』『もしものときのために「人生会議」』『アドバンス・ケア・プランニングいのちの終わりについて話し合いを始める』
ACPの取り組みがもたらすよい影響
ACPを通して患者が望む医療・ケアについて話し合うことにより、以下のよい影響をもたらすと期待されます。
▼ACPがもたらすよい影響
- 生活の質(QOL:Quality of life)を保てる
- 患者と家族の不安を減少できる
- 意思と代理決定者によるコミュニケーションが円滑になる など
患者や家族とよく話し合うことで、患者の意向を尊重した治療法やケアを実践できるようになります。患者の価値観や希望を反映させることにより、医療に対する満足度の向上や生活の質の維持を望めます。
また、医療従事者との十分な話し合いによって治療法やケアを一緒に選択することにより、患者と家族の不安を低減させることにつながると考えられます。
患者が終末期において自身の意思表示が難しい状態となった場合でも、代理決定者が患者の意向を理解していれば、医師への共有が可能になります。
出典:厚生労働省『アドバンス・ケア・プランニングいのちの終わりについて話し合いを始める』
医療現場におけるACPの取り組み方
予後が限られている患者や慢性疾患を持つ患者、人生の最終段階にある患者に対しては、「患者が何を大切にするか」「どのような治療をゴールとするか」について話し合うプロセスを共有することが重要です。
ただし、ACPは患者の主体的な行いによって進める必要があるため、「知りたくない」「考えたくない」と思う患者に対しては配慮が求められます。
➀患者の価値観を理解する
医療従事者は、患者の価値観を理解するためのコミュニケーションを行い、どのような医療を望んでいるのかを確認します。
▼患者と話し合う内容
- 現在の家族構成や生活状況はどのようなものか
- 患者本人が気がかりとしていることは何か
- 病状や予後に対する十分な理解があるか
- 今後の治療や療養に対してどのような希望があるか
- 希望する治療や療養を選択した理由は何か
- これからどのように過ごしていきたいか
- 治療・ケアについて実施してほしくないことは何か など
患者に必要な情報提供と説明を行うとともに、今後の生活について話し合い、治療やケアによるゴールを明確にすることが重要です。
ただし、ときには患者にとってつらく現実的な内容を伝えなければならない場合があります。その際は、「患者にとってよい方向になることを願っている」という気持ちを示したうえで、「もしものときにどうするか」を話し合うことが必要です。
②代理決定者の選定と意向の共有を行う
患者自身での意思決定が難しくなった場合に備えて、患者が信頼する代理決定者を選定してもらい、意向について共有しておく必要があります。
患者本人との話し合いのみで事前指示書(※)を作成すると、代理決定者による意思決定が必要になった際に「患者がなぜそのような判断をしたのかが分からない」といった問題が生じて、治療法やケアの選択に生かせない可能性があります。
話し合いを行う際は、患者が信頼できる代理決定者を選定してもらい、可能な限り一緒に参加してもらうことが望まれます。
※終末期における医療の治療方針やその代弁者を定める書面
③話し合いのプロセスを記録・共有する
患者の意向は、心身の状態に応じて変化することがあるため、繰り返し話し合いを行い、そのプロセスを記録・共有することが重要です。
事前指示書を作成するだけでなく、話し合った内容や患者の価値観、決断の理由などをまとめて、医療・ケアチームで共有します。
また、医療・ケアチームのみで意思決定の支援が難しい場合や、患者・家族による合意形成が得られない場合には、訪問看護師・ソーシャルワーカーなど外部の専門職と連携することもポイントです。
透析療法を検討している患者のACPで配慮が必要なこと
腎代替療法となる透析療法を導入する際には、医学的な根拠だけでなく患者の年齢や生活スタイル、性格なども考慮したうえで、患者の希望を尊重した治療法を選択する必要があります。
国内における透析患者は高齢化が進んでおり、終末期の医療について患者自身での意思決定が困難になったり、通院による患者と家族の負担が生じたりするケースも少なくありません。
病院・訪問看護ステーションにおいては、患者・家族の意思や価値観を踏まえたうえで以下の選択肢を提案することが求められます。
▼透析患者のACPで伝えること
- 透析療法の導入による生活の制限や予後の説明
- 心身のつらさを和らげることを目的とした在宅緩和ケアの提案
- CKM(保存的腎臓療法)への切り替えも含めた腎代替療法の正しい情報提供 など
▼在宅緩和ケアや腎代替療法については、こちらの記事で解説しています。
まとめ
この記事では、ACPについて以下の内容を解説しました。
- ACPの基本的な概念
- ACPの取り組みがもたらすよい影響
- 医療現場におけるACPの取り組み方
- 透析患者のACPで配慮が必要なこと
ACPを通して患者の価値観、今後の治療・療養に関する意向を共有しておくことで、もしもの際に患者が望む医療・ケアを選択できるようになります。
特に透析療法の導入に際しては、年齢や生活スタイル、性格なども踏まえて患者に合った治療方針を検討することが重要です。ACPを実施する際は、話し合いのプロセスを記録して医療従事者間で共有できる仕組みを構築することも欠かせません。
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